気になる人にお話を聞かせていただきました vol.1 「メリーの会」小川純恵さん
わたしは「きょうだい会Shirabe」という任意団体の運営をしており、同時にフリーライターとして仕事をしています。
そんなわけで、突然ですが「すてきな人だな~」「すてきな活動をしているな~」と思う方にお話を聞かせてもらって、記事にしました。
よかったら、お読みください!
快く引き受けてくださった小川さん、ありがとうございました(^^)
発達障がいの子どもをもつお母さんが、ありのままでいられるサードプレイスをつくりたい
人と人がゆるくつながる「メリーの会」代表・小川純恵さんが目指すもの
“人とはちょっと違う、ちょっと変わった子育てだけど、楽しみたい。あるある話をして、笑い合って、「明日もまたがんばろう!」って思える会をつくりたかったんです”
そう微笑むのは、群馬県桐生市にある「メリーの会」代表の小川純恵(おがわ すみえ)さん。
発達障がい、グレーゾーン、敏感体質など、生きづらさを抱えた子どもたちのお母さん・お父さんが、誰かとつながる「きっかけ」を提供する活動をおこなっています。小川さん自身も、発達障がいをもつ女の子のお母さんです。
「メリーの会」を立ち上げるきっかけとなったのは、娘さんからの衝撃的な言葉。
「生きていても仕方がない。死んじゃいたい」
たいせつに、たいせつに育てたはずの娘に泣きながらそう訴えられたとき、小川さんの中で何かが音を立てて崩れ去りました。
そして、それはずっと独りで抱えてきた荷物を降ろし、周囲の人に助けを求めるきっかけとなったのです。
どん底に落とされたその言葉が、「メリーの会」を立ち上げる原動力となったのはなぜなのか?
小川さんがその経緯と想いを語ってくれました。
診断するか?しないか? 揺れ動いた7年間
小川さんの職業はフリーの理学療法士。学校を卒業したあと肢体不自由児施設に10年間務め、結婚を機に退職しました。
現在は多機能型デイサービスに非常勤として務めるほか、子育て支援団体で赤ちゃんの発達相談や育児相談を受けたり、発達を促す遊びや体操を教えたりしています。
子どもの発達のプロとして、20年以上を過ごしてきた小川さん。次女の発達の遅れに気がついたのも、1歳ごろと早い時期でした。
しかし、家族に話すと「職業柄、気にしすぎなのでは?」と言われ、ご自分でも「そうかもしれない」と考えたそう。
それでも疑いは消えず、幼稚園、小学校と集団に入るタイミングで「診断が必要なんじゃないか」と何度か家族に相談するも、反対されました。
“「その診断は誰のためにするの?」と主人に聞かれたんです。もちろん娘のためだと答えましたが、「このままでも周りに馴染めているし、診断を受けたら「障がい者」というレッテルを貼られる恐れがあるのに、子どものためになるとは思えない」と”
小川さんのご主人は小児科医。多くのお子さんを診療しているからこそ、特性は個性と捉え、診断を受けることに懐疑的でした。
実際、幼稚園では「ちょっと特徴のある子」として受け入れてもらい、お友達ともうまくいっていたので見守ることにしたそう。
しかし、小学2年生に進学したころから、登校しぶりが始まります。
そしてある日、娘さんは泣きながらこう訴えました。
「学校に行くとみんながわたしのことをバカにする。ダメだよ、違うよって何回も言われる。わたしはダメな子なんだ。生きていたって仕方がないんだ。死んじゃいたい」
周囲に助けを求めたことで前向きに
「わたしは理学療法士で、子どもの発達のプロで、この子のお母さんなのに……わたしのしてきたことは、すべて間違いだったんだ」
小川さんはそう自分を責め、一時期は軽いうつ状態になりました。孤独でたまらず、八方ふさがり。心身ともに限界を感じました。
“「もうだめだ。わたしはプロだけれど、子育てがうまくいかない。だれか、なんとかしてください!」って全部投げ出すみたいにして、やっと娘の発達診断を受けたんです”
診断はアスペルガー症候群。「やっぱり」と、小川さんはショックを受ける代わりに安堵したそう。
そして、診断結果によってスイッチが切り代わり、「“発達障がいの子をもつお母さん”として、がんばろう!」と、ポジティブ思考になりました。
それからの小川さんは、さまざまな勉強会を訪れたり、自閉症の親の会に顔を出したりと行動的に。子育ての軌道修正をしたことで、娘さんに自分に自信がもてるような声かけができるようになり、学校にもまた楽しく通えるようになりました。
近隣に発達障がいの子どもをもつ親の会がなかったこと、もっとお母さんたちがほっとできる場所、ゆるくつながれる集まりがほしいという気持ちから、2015年1月、「メリーの会」の立ち上げを決意。月に1回、交流会をおこなうことから始めました。
“わたし、ママ友がいなかったので。単純に、似た立場の友だちがほしかったんです”
と照れくさそうに笑う小川さん。ふんわりとしたお人柄に惹かれ、ひとり、またひとりと参加者が増えていきました。
お母さんたちがありのままでいられる「サードプレイス」に
「メリーの会」がおこなっている活動は、テーマを決めた座談会や、おしゃべりしながら作品をつくる「おしゃべりワークショップ」など。来たいときに来て、帰りたいときに帰る、ただふらっと立ち寄るだけの日もあります。
“実は、「メリーの会」には会員がわたししかいないんです。なぜかというと、その会に参加すること、参加しないこと自体がストレスになってしまってはいけないと思うから。「メリーの会」は、駆け込み寺のような、必要なときに必要な人が立ち寄れるような、ゆるい会でありたいんです”
「メリーの会」は、「3つの安」を掲げています。
安心・安全・安楽。
うまくいっていても、うまくいっていなくても、お母さんたちがそのまま・ありのままを受け入れてもらえる場所。
“メリーの会に参加してくれたお母さんから言われ、印象的だったのは、「ここに来て話をすると、家に帰って子どもに優しくできるんですよね」という言葉。「3つの安」を感じてくれたんだなあって、嬉しかった。お母さんがほっとできる時間があれば、子どもの気持ちも落ち着くと思うんです”
小川さんは続けます。
“べつに、わたしが何かしているわけじゃないんです。「メリーの会」は、人と人とがつながる「きっかけ」に過ぎなくて。
同じような境遇でがんばっている人を見たり、自分の話を受け入れてもらえたという経験だったり、そのことで自分自身を客観的に見られるようになったり。それは参加者のみなさんの間で為されていることで、「メリーの会」がしていることじゃないんですよね“
でも、そういう「きっかけ」は、どこにでも落ちているわけではありません。
「メリーの会」は、「きっかけ」=「チャンス」を与えてくれる場所。人と出会い、自分自身と向き合い、子どもや自分たち家族を客観的に見る「チャンス」が拾える場所なのでしょう。
今後は、「メリーの会」のような場所が増えていくように、地域社会や行政にその必要性を訴えかけていきたいという小川さん。
お母さんたちやその子どもたちが、本当に安心して、安全に、楽しく暮らすために。
「メリーの会」は、ゆるやかにつながっていきます。