弟のグループホームの同居人さんのこと

「手をつなぐ親の会」は、障害者の親が運営する長い歴史をもつ団体で、全国に展開しています。

わたしの両親も、弟が養護学校に入って以来、そちらで長いことお世話になっています。

 

先日、手をつなぐ親の会太田支部の研修会で、弟と同じグループホームに入っている利用者さんのお父さまが講演をしてくださいました。

テーマは「親亡きあと就労しながら自立していくには」。

 

わたしの親世代が今いちばん関心のあるところなのですね。福祉会館の会議室で行いましたが、座る場所がなくなるくらいたくさんの方が聴きにいらしていました。

 

(始まる時間を勘違いして行ったわたしは遅刻してしまい、講演者のド目の前に座ることに……そして運動会前日のため息子のお迎え時間が早かったので中座しなければならず……失礼の連続で後悔しております……)

 

弟は重度知的障害者なので、自分で作業所に行くことはできないし、部屋の掃除もできないし、だれかにしてもらわなければならないことがたくさんあります。

これを「自立」というのか?と姉としては疑問もありましたが、グループホームに入ることで親元を離れ、「自分の生活」をしていることが彼にとっての「自立」なのだろうと考えています。

親がいなくなったあとも、変わらず自分の日常が送れることが「自立」なのかなあと。

(なんか、自分の親と同居しているわたしのほうが自立できないないんじゃないかとちょっと焦ったり……)

 

登壇してくださったお父さまの、弟と同じグループホームに入っている息子さんは、実はわたしと同級生です。

軽度の知的障害をもっていますが、小学校のときは普通学級に通っていました。中学を卒業するタイミングで障害者手帳を申請し、高校は高等養護学校に通ったそう。

お父さまは、ご自身のお兄さんも知的障害をもっていらして、「きょうだい」でもあります。

(今回はこの話はテーマではなかったので伺えませんでしたが、いずれ個人的に聞くことができたらなあと思っています)

 

わたしは、小・中・高時代、自分が障害者の家族であることに敏感であり、またそのことで「特別な子」になりたくなくて、かかわりたくないと考えていたタイプだったので、おそらく障害をもっているであろう子どもとはなるべく近しくならないようにしていました。

だから、無関心を装っており、彼のことは気になるけれど気にしないようにしていました。

そうして自分を守っていたのでしょう。仕方のないことですが、親切さのない子どもだったなあ~とも思います。

 

彼が小学生のころの話から、中学校や就労先でいじめられた話、現在の給与の使い道など、赤裸々に話してくださいました。

もっとも印象に残ったのが、高校卒業後、一般企業に就労した際の話。

最初は当時の最低賃金で働いており、10万円以上稼いで手取りも6~7万円くらい。

大きなお金ですから、家族も本人も喜んで、これからますます仕事を頑張ろうと張り切っていたそうです。

しかし、会社が労基に相談したところ、なんと「彼の場合、時給200円でよろしい」といわれたという……

お父さまは、せめて300円にしてくれと食い下がったそうです(それでも少なすぎます。彼はほんとに軽度の知的障害者ですから、指示されたことは適切な内容であればきちんとこなせるはずです)。

すると「それじゃあ会社に雇ってもらえませんよ」と言われたそう。それでもがんばって、時給230円に上げてもらったそうですが(30円……)、それにしたって労働基準監督署が言ったってのが信じられない。

もちろんお給料は半分以下に減りましたから、モチベーションは下がるに決まっています。

約20年前の話です。今はどうなのでしょうか……。

 

その後、「エコネット・おおた(http://mori-no-ie.jp/econet/)」さんに出会い、就労継続支援A型でお仕事をされているそうです。

こちらは就労当初は時給450円。カレンダー通りのお休みがもらえ、近くの行政センターからバスの送迎もあり。

現在の時給は810円になって、お掃除のお仕事をがんばっています。

 

彼がグループホームに入る際は、最初はやはり「家を追い出される!?」という焦りがあったらしく、「どうして出ていかなきゃならないのか」と強く反発したそう。

ご両親だけでは説得が難しいと考え、エコネット・おおたでずっとお世話になっているサービス管理責任者の方にお話をしてもらったりして、だんだんと理解を得られました(どうも最初は、「グループホームに入ったらもう出てこられない、実家には帰れない」と考えていたようです。と、仰っていました)。

それでも、ホームに入る直前まで「自分は納得していない!」と言っていたのだそうです。

 

が、実はグループホームは彼の家から徒歩1分という激近な場所にあり、建ったばかりなのできれいで、トイレ付きの部屋もあり、大好きなゲームをしていても誰にも注意をされず、その快適さにすっかり気に入った様子。

このへんはうちの弟と同じです(笑)。

 

グループホームの生活に慣れた最近では、だんだんと「これはこうしたほうがいいんじゃないか」と職員さんに提案したり、

ほかの同居人の方々を気にかけたり(土日はお昼ごはんが出ないので彼は実家に帰って食べるのですが、「〇〇さんがひとりになっちゃう(もちろん職員の方や世話人さんはいますが)から、もう戻る」とすぐにホームに帰ることもあるそうです)、

自分以外の人を気遣う様子が見られると仰っていました。

 

うちの家族も、彼が同居人なら安心だね~なんてよく話しています。

「だれかに頼りにされる」というのは、大きすぎるプレッシャーでなければ、本人の自信・やる気につながる活性剤ですよね。

 

それから、グループホームに入ると、金銭の管理は職員の方がしてくれるのだそうです。

もらったお給料はいったんホームにいれて、通帳などで金額を確認しながら本人と職員さんで相談して、利用料、通院費、日用品代、小遣い等々を最終的には本人が決めて、そのなかでやりくりします。

最初は小遣いを多くとってしまい、ほかのところが足りなくなって貯金をつかうといった失敗もあったそうですが、だんだんと改善してきているそう。

というか、お金の管理は障がいあるなしとか関係なく、難しいですよね……わたし、苦手なので……見習わないと、と思いました……。

 

弟の生活費に関しても、職員の方と相談できるのであれば心強いです。

一時期、わたしが後見人になるかならないか……という話もあったのですが、法が絡むことなのでやはり良し悪しあるらしく。この辺りの問題は、家族だけじゃなくて第三者も交えてよく話し合わないとな、と感じました。

 

働くことの意味や目的に関しても、実家にいるのといないのとではかなり理解度に差があるということでした。

お金の面でいえば、大きなところでは家賃ですね。実家ではかからないけど、ホームだと固定費としてかならずかかる。しかもそれを払えなければ住めなくなってしまう。

その収入を稼ぐために働かなければならないという点は、避けて通れない道です。ホームにいるとこれをリアルに感じられるために、お金の使い方が変わってきたようです。

 

「なぜ働くことがたいせつなのか?」という問題には、収入を得るため以外にも人によっていろいろな答えがあります。

この答えに関して、彼が彼自身で考えて、体験しながら働く目的をもてるような支援を、ホームではこころがけているそうです。

 

また、講演されたお父さまが仰っていましたが、障がいのある人が自立して暮らすには、定年までに1,500万円あればなんとか暮らしていけるだろう、というプロの方のお話なのだそう。

 

 だから、障害のある人のご両親は、自分たちが元気なうちにすこしでも貯めといてあげようと必死なわけです。

それを、貯蓄額を見て「こんだけあるんだからいらないよね」って、支援金の払い控え(っていうのかわかんないんですけど)する行政の制度があったってききましたが、詳しくないので今どうなのかわかりませんが、それは違いますよね……。

 

 

お父さまのお話の後に、エコネット・おおたさんのサービス管理責任者の方が、支援者の視点から、テーマに沿って講演をしてくださいました。

残念ながらわたしは中座しなければならなかったのですが、こころに残った話がひとつ。

「障害をもつ人が、独り暮らしをしながら就労できるのか」という質問について、

「できないことはないけれど、あまりおすすめしません」と仰っていました。

生活面に関してはヘルパーさんを頼んだり、金銭面では後見人を付けたりして、外部からの支援を活用すれば、可能ではある。

しかし、「寂しさ」や「孤独感」に、無自覚に蝕まれてしまう恐れがある。本人が気が付けないんですね。

それが、「問題行動」というカタチで露出する場合があるそうです。

 

これわたしもなんとなく覚えがあって。

大学生のときに独り暮らしをしていましたが、なぜか異様にモノが欲しくて欲しくて、無駄遣いをすっごくした時期があったのです。

そんなに長い期間ではなかったと記憶しているんですけど(じゃないと生活できてなかったと思うので……)、ああ、あれがそうだったのかなあって。

 

管理者さんがいうには、なるべく自分が育った地域に近いグループホームに入るのがいいんじゃないかな、というお話でした。

「歯磨き粉がない、買いに行かなきゃ、でもどこで売っているのかわからない、どうしよう」

で、まあ人に聞けばすぐわかるじゃん。コンビニに売ってるじゃん。スーパーにも売ってるじゃん。と思うかもしれませんが、そこが聞けなかったりどこに売っているのか思いつけなかったりするのが障害です。

「歯磨き粉がない。そうだ、10分歩いたところの、あのウェルシアに売ってる。買いに行こう」

と、慣れ親しんだお店や人がいるほうが、本人の安定にもつながります。

 

それから、いきなりホームに入るのではなくて、ショートステイから始める。

無理強いせず、話し合いをかさねて、少しずつ調整していく。

 

環境が変わるということは、誰にとっても大きなストレスですから、突然大きなストレスがズドン、ではなく、小さなストレスから始めて、小さいまま移行していくような…… なんだろ、意味わかりますかね、これ。ちゃんと伝えられてるかな。

そういう配慮が必要なのですね。ほんとはみんなそうですけどね。

「はい、来週からキミ名古屋支店配属ね~」とか、嫌ですからね(当然ですが、名古屋が嫌なわけじゃありません。今パッと思いついただけで……)。

 

グループホームに入ったからって、「親の役目が終わった。おつかれっした~」には全然ならなくて、むしろ生活が安定するまで心配はし続けなくてはなりませんが、弟をはじめ同居の方々もちょっとずつホームに慣れて、自立の道を歩んでいるようです。

 

お話聞いてて、「いやぜったいこれわたしのほうが自立できてないよ……」って焦燥感にかられまくったので、ちょっと……がんばりたいと思います……いろいろと!

超長文のうえに、こんな締め方ですみません!!